北海道函館市日浦町。海に迫る黒灰色の岩壁には、柱のような割れ目が幾重にも走っている。「道南金剛(どうなんこんごう)」と呼ばれるこの景観は、函館市の文化財にも指定されている。
現地で目を引くのは、岩肌を斜めに走る細かな筋と、階段状に切り取られた広い斜面だ。海岸にそびえる断崖には、火山活動で生まれた柱状節理と、その岩を人が切り出してきた採石場の跡が残っている。今回は現地で撮影した写真とともに、道南金剛の地質や採石場の歴史、名前の由来をたどってみたい。

道南金剛とは?函館市日浦町に残る柱状節理
道南金剛は、函館市日浦町の海岸にある柱状節理の岩壁だ。函館市の文化財一覧では「名勝(めいしょう)」に分類されている。名勝とは、庭園や海岸、山など、景観の美しさや鑑賞する価値が認められた場所に対する文化財の区分である。道南金剛は1959(昭和34)年8月1日に旧恵山町の文化財に指定され、2004(平成16)年12月1日の市町村合併で函館市指定となった。文化庁の「文化遺産オンライン」にも解説が掲載されている。
「柱状節理」とは、火山岩などが冷えて収縮するときに生じる、柱のような割れ目のことである。道南金剛の岩壁では、筋が垂直に並ぶ部分だけでなく、斜めに走るところや向きが変わる場所もある。遠目には巨大な壁に見えた岩肌が、細かな柱の集まりとして見えてくる。

道南金剛の柱状節理は、岩肌を水平に横切る線と、斜め方向の割れ目が重なり合うように見える。道路沿いの擁壁と比べても岩壁ははるかに高く、写真に収めるとその広さが分かる。曇り空の下では黒灰色の岩肌が濃く見え、所々に植物が根を下ろしていた。
「道南金剛」という名前はいつ生まれたのか
文化遺産オンラインの解説によると、「道南金剛」という名称は、1930(昭和5)年8月に渡辺万次郎理学博士によって命名されたという。函館市が公開する東部地域の観光素材資料では、柱状節理の断崖や岬と入り江が交互に現れる景観を、金剛の力強さになぞらえた名として紹介している。
一方、『恵山町史』には、昭和4〜5年に海岸沿いの隧道が掘られ、「賽の河原」へ向かう人々がこの景観を道南金剛と呼ぶようになったとの記述もある。
道南金剛という名前が伝わり始めた昭和初期は、日浦洞門が開通して海岸への道が整備された時代でもあった。切り立った岩壁を間近に眺められる現在の道には、そうした道路建設の歴史も重なっている。
江戸時代の旅人も記した日浦の海岸
『恵山町史』によれば、豊浦から日浦まで約3キロにわたる海岸線は、菅江真澄や松浦武四郎の紀行にも登場する景勝地だった。海岸の一部には、かつて「賽の河原」という呼び名もあった。まだ現在のような道路ができる前から、険しい岩と海がつくる景色は人々の印象に残っていた。
昭和初期には、この海岸に7つの素掘りトンネルが造られた。江戸時代の旅人が記した断崖は、岩壁を貫く道路ができたことで、陸路からも間近に眺められるようになった。
採石場跡に残る、段状の岩壁
道南金剛には、かつて石材を切り出していた採石場跡がある。函館市の観光素材資料でも、採石場跡に残る柱状節理を見どころの一つとして紹介している。
道路側から見上げると、広い切り取り面が階段状に続き、その上を斜めの節理が走る。黒灰色の岩が露出した部分と、草木に覆われた部分が交互に現れる。写真には、その大きな斜面が道路の擁壁よりもずっと高いところまで続く様子が写っている。
岩肌の細い筋を目で追うと、その途中で段状に削られた斜面にぶつかる。火山活動が残した割れ目と、採石場として使われた時代の切り取り跡。長い時を隔てた二つの痕跡が、ひと続きの崖に刻まれていた。
サンタロナカセ岩に伝わる物語
道南金剛と日浦洞門の周辺には、「サンタロナカセ岩」と呼ばれる奇岩もある。函館市の観光情報によると、漁に出た息子が帰らず、父と息子の嫁が浜辺で待ち続け、やがて岩になってしまったという民話が名の由来だ。この地に造られた新しい国道の「サンタロトンネル」にも、同じ土地の言葉が残された。
柱状節理がつくる断崖と、近くに残るサンタロナカセ岩。日浦の海岸には、岩石の成り立ちを知る面白さと、漁村に伝わってきた物語の両方がある。
日浦洞門とともに見る、海岸道路の歴史
道南金剛の海岸には、岩盤を掘り抜いて造られた日浦洞門が連続している。日浦洞門は1929(昭和4)年に開通した7つのトンネルの総称だ。1970年に国道278号に昇格したこの海岸道路は、1985年のサンタロトンネル開通と1986年の豊浦バイパス完成を経て主要な通過交通を譲り、1987年には道道函館恵山線となった。現在も道道41号として使われている。
『恵山町史』によれば、この海岸道路は景観に恵まれる一方、高波や落石、曲がりくねった道が課題となっていた。岩壁をくり抜いて通した旧道と、後に山側へ造られた新しいトンネル。どちらも、岬が海へ迫る険しい地形に道路を通すための工夫だった。
日浦洞門のトンネル内部や道路の変遷については、日浦洞門の記事にまとめた。
訪れる際の注意点
道南金剛は、海岸沿いの道路から巨大な岩壁を望める場所だ。周辺には狭い区間があり、日浦洞門も含めて高波や落石で通行が規制される場合がある。現地では標識や道路状況を確認し、安全に眺められる場所を選びたい。
岩壁の高さや広がりは、道路にある擁壁と見比べるとつかみやすい。ここを訪れたときの写真を掲載し、採石場として使われた斜面の様子を記録しておく。
場所・探訪マップ
道南金剛は函館市日浦町にある。Googleマップでは周辺の位置を確認できる。下の「暇人マップ」も、北海道各地の探訪地点をまとめた記録として掲載しておく。



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