
映画の町・夕張本町を歩く
かつて映画の町として栄えた夕張市本町。
その中心部を貫く「キネマ街道」には、昭和の風情が今もわずかに残っている。
そして、その一本裏手にある「梅ヶ枝横丁」には、
かつて小さな店々が肩を寄せ合うように並び、生活の匂いが濃く漂っていたという。
2025年2月、私は再びこの通りを歩いた。
失われていく風景の中で
2018年に初めてこの場所を訪れたとき、建物の多くはまだ廃墟として残っていた。
それらが年を追うごとに解体され、2019年、2022年、そして今回2025年の訪問では、さらに多くの建物が姿を消していた。
建物によって隠れていた通りの裏側が、今は更地となり、見渡せるようになっている。 入り組んだ町並みの一部だった場所が、ぽっかりと空白になっていて、時間の経過を視覚で感じさせる。
かつてこの横丁に存在した店舗の名前が記された壁が、今も残っていた。 色褪せたコンクリートの表面に、たくさんの「名前」が丁寧に並んでいた。 それは、この場所に店があり、営みがあったことを静かに伝えていた。
「名前」というものが、こんなにも静かに強く、胸に残るとは思わなかった。
四度目の記録として
このエリアを動画で記録するのは、これで四度目になる。 最初は2018年、次に2019年、2022年、そして今回、2025年。
通りの風景は少しずつ変わっていた。
営業を続けていたお店も姿を消し、
やがて建物そのものがなくなっていく。
通りの向こうに差す光や、雪の足音の中に、
どこか懐かしい匂いが残っていたように感じた。
記録の中で伝えたかったこと
動画では、歩きながらその風景を静かに記録している。
派手な演出はなく、ただ町と向き合うようにして。
タイトルは【夕張市本町】キネマ街道・梅ヶ枝横丁──消えゆく看板たちの通り【2025年2月 現在】。 “現在”という言葉をどうしても入れたかった。
変わりゆくことを受け入れながら、
「今ここにあるもの」を残したかった。
「限界都市」の見出しの向こうで
夕張という町は、
報道やネットでは 「財政破綻の町」「限界都市」といった言葉で語られることが多い。
私は、そういった見出しの向こうにある風景をちゃんと見たかった。
暮らしていた人がいたこと。
今も暮らしている人がいること。
そして、離れた場所から「この町を想っている人たち」が確かにいること。
そういった記憶の交差点みたいな場所が、
本町…いや夕張には今も残っているような気がしている。
今も営まれている店たちの記憶
今回の動画では、通りの途中で「ミヤサカ」という店の看板が映っている。
2022年の夏に撮影したとき、
ちょうど営業時間外だったため営業されていないように見えていたが、
実際には夜営業を続けていた。
そして、2024年11月── その店は惜しまれながら閉業を迎えた。
この横丁のなかで、長く親しまれてきた店のひとつだった。
一方で、今も営業を続けている場所もある。
梅ヶ枝横丁の「喫茶コンパ」は、やさしい灯りとともに今も変わらず店を開けている。
ピラフの湯気、ハムタマゴサンドのあたたかさ、そしてコーヒーの香り。
変わってしまった町の中で、ほっとできる“今”がそこにはあった。
居酒屋「俺家」はまだ訪れたことはないけれど、
暖簾は確かに掲げられていて、
夜の時間にふっと人の声が戻ってくるような気配が残っている。
キネマ街道沿いにある「ユックさかい」では、
ピザトーストとコーヒーをいただいた。
ほんの少しの会話と湯気の向こうに、
確かに町の暮らしの輪郭が感じられた。
静まりゆく町のなかで、それでも営みを続けている灯りがある。
そこに人の姿がある限り、この町は「今」の中に生きている。
誰かの会話のなかで思い出されることはなくても、
あの看板がそこにある限り、 「ここに確かにあったんだ」と言える気がした。
野良猫と静かな通り
夕張本町では、かつて訪れたとき、野良猫たちとよく出会った。
私がこの町を初めて記録した2018年のときも、2022年の夏も、 通りのどこかに、かならず猫たちの姿があった。
今回、2025年の訪問では猫の姿は見つけられなかったけれど、
雪の上に残された小さな足跡が一本だけ、風に埋もれかけていた。
それだけでも、この町の片隅で、まだ静かに生きている命があるのだと思えた。
夕張本町という町の印象とよく似ていた。
あの通りに今も残っているもの
この動画が、たった一人にでも静かに届けば、それで十分だと思う。
どこかで── 「懐かしい」とか、「あ、ここ知ってる」とか、
そんな小さな引っかかりになってくれたら嬉しい。
離れた場所から、故郷を想う誰かの心に届いたら。
あるいは、これから夕張を歩こうとしている誰かの道しるべになったら。
そんな願いを込めて、編集して、公開しました。
▶ YouTube動画はこちらから: https://youtu.be/gXJgpUKNhzE?si=IbBPj3Zd_Vqrhmvn
動画も文章も、そして記憶も。
誰かの心にそっと沈んで
、静かに息をしてくれたら、それだけで十分です。
──2025年2月 夕張市本町にて
X(旧Twitter):@himajine_syasai フォローしてもらえたら嬉しいです。
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